FLIER in Dark and Sensitive Room, Hours from Dawn to Dusk till Dawn

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無題

私小説「無題」

~承前~

ファインダーを覗きながら真正面に彼女を配置すると、その六七比率の画面左上方向から直射日光
を受けそうな感じになった。太陽がぎりぎりフレームアウトする位置で、僕は脇を締めてカメラを
固定した。

 先ほど、彼女が僕の目の前に突然登場する直前、樹木の周りをグルグル回った時に光を計りつつ、
「樹皮が剥がれた部分とかをあまり飛ばすのもいただけないナ…」なんて思いながら露出計のボタン
を五、六回は押したので、逆光時の数値は頭に入っていた。

 直感に従ってシャッタースピードを二段遅くして、空と雲のディテールを一旦僕は捨てた。

 彼女の髪と背景の空にくっきりしたコントラストがあったので、その部分で正確に二重像を一致
させ、焦点を合わせた。彼女が僕に話しかけるために立ち止まったその距離は、画面内に文句無い
プロポーションを与えていた。   
 
 先ずはこれで良かった…
 
 夕方の風でその髪がどれ程乱れようとも、彼女はそこに手をやる仕草を全くしない事に僕は満足
しながら、最初の一枚はただシャッターを押した。

 その遅いシャッタースピードは、なびいている髪をきっと静止させられないのを目論んで、その
動きをじっくり先読みしながらまた一回、二回と撮影した。

 こんな時に限ってフィルムが巻き太ったりしないように、細心の注意を払いながら気をつけて
ゆっくりと巻き上げ、シャッターをチャージしながら、そしてアングルを変えようと左側に七~八
歩回り込んでみたら、彼女の目線は僕の写真機を追ってこなかった。

 これにも全く異存は無く、二つの心が形を成して調和する様子に、僕はこのセッションの「ノリ」
を感じた。

 ほぼ順光に変わった彼女の横顔を正面に見ながら三歩近づき、シャッタースピードを今度は二段
早くして一枚撮影した。

 静かなレンズシャッターとは言えこの距離なら彼女にもシャッター音が聞こえた筈だ。
その瞬間、この前も羽織っていた例の登山用のハイテクなウィンドブレーカーを彼女は素早く脱ぎ、
風に向かって高く掲げて国旗のようにはためかせた。

 さっきまでの真顔と違って今度は弾ける様な笑みを浮かべて…

 シャッターのタイミングはファインダー内の彼女が、無言で教えてくれた。

 僕はただ、その姿を追いかけてボタンを押すだけ。

 写真なんて…

 誰にだって撮れる…

 ***

 その時僕が持っていたカメラの、ミラー反射を介さない素通しファインダーの中にいるその姿は、
文字通りどんな鏡にだって反射している訳でも無い生身の彼女であり、そして僕はこの女性への
感情に、もはやどんな迷いだって無かった。

 そのようにして、十枚の彼女の姿が映っているはずのフィルムが入りっぱなしで、そのままでは
新しい写真を撮る事も出来ない役立たずの写真機を右手にだらんとぶら下げたまま、立ち枯れの
樹木と同じく静止パフォーマンスの大道芸人のように、ただそこに立ち尽くしていると、彼らの
そんな芸が体ではなく脳や心でやるものなんだって事が、突然理解出来たり…

 そんな事を遠い意識に感じながら…

 ***
  
  
  
  
  
  
 という感じで、ほんの少しの空き時間に休憩したくて入ったスタバの店内でも、
一心不乱に伝票の裏などで推敲している訳で…周りの人たちに変に思われていない
だろうかなんて、チョット意識してしまう昼下がりだった。


  
  
  
  
  
  
  
  
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by flierone | 2010-12-05 19:26